明治蜜恋ロマン～御曹司は初心な新妻を溺愛する～
華族は社会的には身分が高く、それを鼻にかけている人たちもいる。

だけど私は、一度だってそんなことを思ったこともないし、女中として働いてきた私は、どちらかといえば庶民に近い立場だった。


「あやさんのほうから身を引かれるべきでは？」
「身を引く？」


とんでもないことを言い出され、目を見開く。

離縁しろと言っているの？


「まんまとだまされたことが広がれば、社長のお立場がない。津田紡績のために身を削るようにして働いてこられたというのに、あんまりだ」


藤原さんは呆れたような表情で、何度も首を横に振る。


「ですが、行基さんは私の出生についてご存じで、それでも妻として置いてくださって——」

「なにもおわかりではないんですね。妻のくせに」


私の精いっぱいの反論を退ける彼は、冷たい視線で突き刺してくる。
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