明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「社長は仕事ではすこぶる厳しいですが、常に従業員のことを考えてくださる優しいお方。あやさんが正当な華族の令嬢ではないとお知りになられても、追い出すなんてことされないでしょう。だからこそ、あなたのほうからと申し上げているんです」


心が凍っていく。
行基さんが優しい人だということは、藤原さんに言われなくてもわかっている。

でも、だから? だから私を追い出せないの? 

行基さんは『愛している』と囁き、いたわるように抱いてくれたのに、それも優しさから出る嘘だと言うの?


「よくお考えください。津田紡績と社長のために。それでは」


藤原さんは自分の意見を主張して帰っていった。


「身を、引く……」


章子さんの存在を知り動揺している私にとって、藤原さんの発言の数々は、傷に塩をすりこまれたようで、悲鳴を上げてしまいそうなほど痛い。

私が身を引いたら、行基さんは幸せになれるの? 
私は彼の優しさに甘えているだけで、邪魔な存在なの?


頭をガツンと殴られたような痛みに耐えかね、しばらくの間立ち上がることすらできなかった。
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