明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「行基さんが浮かない顔をしていると、先ほど言いましたよね。あやさんとの間がうまくいかないほうが、仕事に支障が出るんです。あやさんはもう、行基さんにとってそれほどの存在なんですよ」


一ノ瀬さんは諭すように話す。


「どうか、自信を持ってください。今度またうまいもの食いに行きましょう。もちろん、行基さんのおごりで。あっ、俺はお邪魔か」


彼はクスッと笑うと「元気出してくださいね」と帰っていく。


「それほどの、存在……」


私だってそうだ。
行基さんがいない生活なんて、もう考えられない。

彼の妻でいても、本当にいいの? 困らないの? 章子さんでなくても?


一ノ瀬さんに見送りはいらないと言われたものの、少し遅れて門まで行くと、彼は男性となにやら言葉を交わしている。

道でも聞かれたのかしら? 
でも……。あの人、前にも見たことがあるような気がする。


しばらくすると、一ノ瀬さんがその男性に小さく手を上げ去っていくので、もしかしたら津田紡績の人かもしれないと思った。
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