明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
それから行基さんは畳に胡坐をかき、いつものように私を膝に乗せる。

近い距離にはいつまで経っても慣れることなく目が泳いでしまうものの、こうして彼の体温を感じられるのはたまらなく幸せだ。


「行基さんは、私と結婚する前に好きな女性がいらっしゃいましたか?」


本当は答えを聞くのが怖い。
章子さんのことを持ち出されたら、つらいからだ。


だけど、私は行基さんが好き。
もし今でも章子さんに気持ちが残っているとしても、私はそれ以上の愛を彼に傾ければいい。


「んー。尋常小学校に入った頃、高等小学校のきれいなお姉さんに憧れていたことはあったな」
「そんなに前?」


しかも、随分年上への恋の話だ。
思いがけないことを話され、大きな声が出てしまう。


「ははっ。登校の途中で転んでしまって、その人がなだめてくれたんだ。それが多分初恋。あやはそういうことはなかった?」
「私は、ないです」


だって初恋は、人力車に乗ったあなたなんだもの。
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