明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「あや」


彼は柔らかな声で私の名を口にしたあと、両手で頬を包み込んでくる。注がれる視線が熱くてたまらず息が苦しいほどだったけれど、逸らすことはできなかった。


「お前が苦しいのなら、俺が半分背負いたい。頼む。なにに悩んでいるのか教えてくれないか」


『半分背負いたい』とまで言われたら、ますます彼のことが好きになってしまう。
好きだから、聞けないこともある。


でも私はこの時気がついた。


章子さんや藤原さんがどう言おうが、私の気持ちを行基さんにぶつければいいんだ。
その上で、行基さんの言葉を信じればいい。

一番大切な人を信じることなしに、他人に振り回されるなんて馬鹿なのかもしれないと。


「行基さん」
「ん?」
「少し、質問していいですか?」
「もちろんだ。なんでも聞いて」


彼が柔和な笑みを見せてくれたので、聞かれて困ることがないんだと安心した。
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