明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「それじゃあこれにする。一橋さんが来てから、この店ばかりに通うようになったよ。小説の話ができるのが楽しくてねぇ」
「ありがとうございます」


お客さまを見送ると、角田さんが隣にやってきた。


「一橋さん、すっかり看板娘だね」
「そんなことないですよ」

「俺だって小説の話してたのにな。やっぱりこのかわいい笑顔が人を呼ぶんよ」


そう言ってもらえるとうれしい。
私にも役に立てることがあるんだ。

その日は夕方までお客さんがひっきりなしに続き、ようやく少し落ち着いた。


「角田さん、夕飯の買い物に行ってきます」
「お願いね」


店を出て八百屋まで行こうとすると、視界に見覚えのある人が入り足が止まった。


「黒岩さん?」


多分そうだ。
この町に来てから、今まで知り合いに会ったことはない。

だけど、行基さんも一ノ瀬さんも仕事であちこち飛び回っていたので、少し離れているとはいえ会う可能性がないわけではない。
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