明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
まだ気がつかれていないと思った私は物陰に隠れて彼をやり過ごした。

危なかった……。

いや、行基さんはもう章子さんと幸せに暮らしているだろう。
私を探しているわけがない。ただの偶然だ。

速まる鼓動を感じつつ、自分に釘をさす。
けれども、しばらく呆然として動くことができなかった。



翌日は朝から大繁盛。


「この本でしたら、こちらです」


本棚の上のほうにある本を取るために、小さな踏み台に上がったときだった。


「あっ……」


——ガタン!

どうしてか目の前が真っ暗になり、体がふわっと浮いたかと思うと、すさまじい音とともに倒れてしまった。


「一橋さん!」


すぐに角田さんが駆け寄ってきて私を抱き上げてくれる。


「けがは? 大丈夫?」
「はい。まだ一段しか上がってませんでしたから、大丈夫——」


転んでしまったのはたいしたことはない。
でも、目を開いた瞬間天井が回り始め、吐き気を催した。
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