明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
反論したいのはやまやまだったが、ぐっとこらえて返事をした。
言い争っても叩かれるだけだ。


「まったく。なんの役にも立ちゃしない」


ふんと鼻息荒く私を叱った母は、そのまま奥に引っ込んでしまった。


「まだダメか……」


頑張っているつもりだが、母は女中としても認めてはくれない。

ため息が出そうになったものの、辛気臭い顔はなにも生まない。
笑顔を作り、洗濯を始めた。


けれども……。一橋家の娘として、いつも初子さんと肩を並べて歩いていたはずの私が、薄汚れた着物を纏い、小間使いのように走り回る姿を見た近所の人たちが、すぐに「妾腹の子だったんだねぇ」と囁き始めた。


『妾腹』の意味が最初はわからなかったけれど、それが決して褒め言葉ではないのは学校に行っていなくてもわかった。

ぶつくさつぶやく人たちの目が、今までとは違い冷たくなっていったからだ。


それでも私は決して悪いことはしていない。

そういう強い思いがあったので、こそこそすることもせず、堂々と街中を歩いた。
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