明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
ならば、ここで働くしかない。そう腹をくくっている。


「そう……。でもね、素敵な女性には誰だってなれるのよ。だからこれはあやにあげるわ」


初子さんは私の黒髪に収まったつげの櫛を見て、にっこりと微笑んだ。



尋常小学校を卒業したあとは、朝から晩まで髪を振り乱して働いた。

それでも、私は少しも絶望なんてしていなかった。

まつから母が舞の得意な美しい女性だと聞かされている私は、自分もいつかそうなりたいと思っていたからだ。


宮内省に勤めている父は酒好きで、しばしば仕事帰りに飲んできてしまう。

しかも裕福だった頃の生活を忘れられない父は、その場にいる人たちの分まで支払ってしまうというような大盤振る舞いが大好きで、散在してしまうありさまだ。

だからか切り盛りしている母の機嫌も、常に悪い。


「あや。洗濯をやり直しなさいと言ったでしょ!」
「すみません。今すぐ」


そんなこと言ったって、障子が破れたから貼りなおせと言われ、それをようやく終えたところなのに。
< 32 / 332 >

この作品をシェア

pagetop