明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「津田のご子息、すごいらしいな。今まで使っていたミュール紡績機を全部リング精紡機にスパンと切り替えて、生産のスピードを何倍増しにもして大儲けしているらしいぞ」


そのとき、近くで男性ふたりが話をしているのが耳に届いた。


『津田のご子息』というのは、かの有名な津田紡績の社長の息子さんのことだろう。

紡績機の違いなんて私にはわからないが、どうやら生産性の高い紡績機を取り入れ、成功したという話らしい。


「へぇ、思いきったことをする人だとは聞いていたけど、そんなに切れ者なのか」

「あぁ。しかも、その利益をきちんと紡績女工の賃金として分配しているんだとさ。会社の発展は女工たちのおかげだと。まだ二十八歳なんだろ? 若いのに立派な志を持つ人だよなぁ」


それから男ふたりは、あとからやってきたもうひとりと合流して去っていったが、私はしばらくその『津田のご子息』のことを考えていた。
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