明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
行基さんの父が口火を切った瞬間、背筋に緊張が走る。


「噂、と申しますと……」


父の声が心なしか震えている。
おそらく初子さんの死因を隠していることがそうさせているのだ。


「はい。行基の婚約者が他の男と身を投げたと。結婚相手が行基では不足だったのだと。とんだ泥を塗られたものだ」


やはり、隠し通すことは無理だったようだ。


「そ、そのようなことは……」
「相手は周防公平。新聞記者だそうですね。行基はそれ以下だということですか」


津田さまは声を荒らげる。
そこまで完璧に調べられているとは。


「初子は、そそのかされたんです。どうかお許しください」


父が情けない声を出している。

違う。

初子さんは自分の意志で周防さんと旅立ったの。
初子さんはそんなにバカな人じゃない。

私は彼女の名誉を守りたい一心で、客間の障子を開けてしまった。
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