明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
裾が擦れ少し汚れた着物を着て右往左往していても、誰も注目なんてしない。

けれども、生前の初子さんのように華やかな着物を着せられるようになったので、立ち居振る舞いには気をつけなければいけなくなった。

女中から津田紡績の御曹司である津田行基の妻という立場に駆け上がるというのは、思いのほか不自由なことだらけのようだ。


「初子さん、子爵令嬢ってつまらないのね」


縁側に座り空を見上げる。

初子さんはまだ女学校に行き、その間は友人との交流もできた。

だけど今の私は、家に閉じ込められてひたすら礼儀作法の勉強。体を動かしているほうが断然楽しい。



そんな不自由な毎日を送り始めて二週間。

私は作法の先生に、懐中時計に書かれている英字について尋ねてみた。


「先生。これ、なんと読むかわかりますか?」


時計を見せるわけにはいかないので、紙に【Y.T】とあった通りに書いてはみたが、先生は首を振る。
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