明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「でも、うまく書けないんです」
「仕方ありませんね。せめてご自分の名前だけでも美しく書けるようにしてくださいませ。手本を書きますから真似してください」


そして先生は【津田あや】と書いて私に手渡す。


「津田……」
「もう津田姓におなりになるんですよ。旦那さまに恥をかかせぬよう、もう少し自覚を持ってください」


私は先生の話を半分耳に入れつつ、【津田】の文字に指で触れる。


「旦那さま……」


正直、突然輿入れが決まったからか、自分が嫁に行くという実感がまるでない。

それでも、行基さんのことを想うと、胸がドクンと音を立てる。

これが、恋なのかしら? 
初子さんも周防さんのことを考えると、こんなふうに胸が苦しかったの?


恋という感情がどういうものなのかはっきりとはわからない私は、そんなことを考えながら字の練習を始めた。
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