明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「とりあえずお茶でも淹れてもらおう。さっき女中が持ってきた」


座卓の上に湯呑と急須が置いてある。


「かしこまりました、行基さま」
「だから、ここには俺とお前しかいないのだから、もっと楽にしなさい。『行基さん』で十分だよ」


そうか。母も父のことを『重蔵さん』と呼んでいるのを思い出し、納得した。


「はい」
「練習してみて」
「は?」


練習って、呼び方の?


「ほら」
「い、いえっ。それはまた今度……」


改めて呼べと言われても、恥ずかしくて無理だ。


「ダメだ。俺の言ったことは絶対だ」


突然威圧的な言葉を吐く行基さんは、その言い方とは違い頬を緩めて楽しそうだ。


「ゆ……行基さん」
「あはは。あや、どうして耳が赤いんだ?」


どうやら彼は私を困らせて喜んでいるようだ。


「そんなこと……知りません!」


私は行基さんに背を向けた。
すると彼は、うしろから手を伸ばしてきて、私を不意に抱きしめてくる。
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