スリジエの花詞
彼は笑っていた。困りも、怒りもせずに、子供のように笑っている。


「何よ、伊尾」


「本当に、いただいてもよろしいのでしょうか」


「そう言っているでしょう」


伊尾は「わかりました」と頷くと、私と同じように立ち上がった。


「伊尾? 食べるんじゃないの?」


「ええ。ですが、私が食べたいものはテーブルの上にないのです」


今から作る気なのかと問えば、伊尾は曖昧に笑った。

またごまかされたのか、と私は肩を落とした。

しょうがない。だって彼は執事だもの。主人と使用人の関係でありながら、許されない想いを抱いてしまった私が悪い。

諦めた私は、大人しく椅子に座ってご飯を食べることにした。
八つ当たりをするように、お水を一気に喉に流し込む。ごくりと飲み干した瞬間、喉元で囁きのような声が落ちた。

——いただきます、と。


何を、と思った時にはもう、温かい感触が唇に触れて、離れていた。


「……え…」


目の前には、伊尾の綺麗な顔があった。


「ご馳走様です、お嬢様」


そう言った伊尾は、いたずらが成功した子供のような、あどけない笑顔を浮かべていた。
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