スリジエの花詞
「……伊尾、」

「おや、お気に召しませんでしたか?」

「き、気に召すって…」


伊尾はまた笑った。


「十三年、私はお嬢様のお傍に居たのですよ。気づかないとでも?」


「な、何を気づいてたって言うのよ…!」


慌てふためく私を面白がるように、伊尾はぐっと顔を近づけると、にっこりと笑う。


「お嬢様が、私に恋をなさっていることです」


その瞬間、私の思考回路は完全にショートした。

全身に血液を送る臓器は、いまだかつてない速さで活動を始める。
それだけではない。頭の中から消そうとしていた言葉までも、私の心の中心に戻ってきた。

すきだ、って。恋してる、って。

言ってはいけない言の葉が、舞い上がってくる。


「そ、そう…」


私は平常心を装って、逃げるように「ご馳走様」と言い、自室へと向かおうとした。

けれど、伊尾がそれを許さなかった。
逃げようとした私の手首を掴み、この場に引き留めている。


「お嬢様」

「は、離してっ」

「雅さま」

「離してってば!」


私は伊尾の手を無理矢理振りほどいて、伊尾の顔を見ずに居間から逃げ出した。

だからその時、伊尾がどんな表情をしていたのか、私は今も知らないままだ。
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