スリジエの花詞
それから、私は必要最低限にしなければならない時を除いて、自室に閉じこもっていた。

伊尾の顔なんて見たくない。勝手に暴いて、笑っていた伊尾なんて嫌いだ。

そう心中で繰り返してはいても、嫌いになんてなれなかった。嫌いだって叫ぶたびに、すきだって気持ちがあふれて、苦しかった。


土曜日の朝、伊尾が新しい執事と一緒に、私の荷物をまとめていた。

週明けに、私が嫁ぎ先である西園寺の家に引っ越すからだ。


その翌日である伊尾が出ていく日に、私はお見送りをすることができなかった。

理由は単純でくだらないものだ。

その前の日の晩から泣きっぱなしだったために、私の顔が酷いことになっていたから。

そんな理由で、私は十三年の月日をともに過ごした人を、見送らなかった。


伊尾は出ていく前に、ドア越しにこう言った。


——スリジエの花詞を知っていますか、と。


私は知らないと冷たく言い放った。

伊尾はそうですか、と言って、そのまま行ってしまった。

こうして、私と伊尾の関係は終わった。
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