スリジエの花詞
「お、お嬢様…」


「教えなさい、伊尾。これ、どういう意味なのよ」


そう言う雅が突き付けてくるノートには、置き去りにしてきた伊尾のメッセージが書かれている。

まさかこんなところに持ってきて、意味を訪ねてくるとは思いもしなかった伊尾は、困ったように眉尻を下げた。


「それは、私の口からは申せません」


「なんでよ」


伊尾は焦りながらも、必死に言い訳を考える。


「こ、これから海を渡って、スリジエの花を見に行くからです…よ」


雅は納得がいかないようだったが、「ふうん」と言うと、迎えに来た新しい執事を見て舌打ちをする。


「じゃあ、帰ってきたら教えなさいよね」


伊尾は笑って頷いた。


そんな日は、開けても暮れても、来ないけれど。


伊尾は雅が連れ帰られるのを見ながら、少しずつ後ろに足を進めた。


一歩、二歩、三歩。そうして十数歩目を迎えた時、彼の体は海に向かって落ちた。
< 19 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop