スリジエの花詞
本当は、彼女の気持ちを暴いたあの日に、めちゃくちゃにしてやろうかと思った。

好きならいいんじゃないかって。喜ぶんじゃないかって。


でも、それで彼女は喜ばないことを、伊尾は知っている。

彼女が心の底から嬉しそうに笑う時は、どんな時なのか。それを世界中の誰よりも知っているから。

知っているからこそ、出来なかった。

壊すなんてこと、出来なかった。


伊尾は最後の一枚の写真を消そうと、指を動かした。

その時、慌ただしい足音とよく聞き知った声に、鼓膜を揺さぶられた伊尾は、画面から顔を上げて後ろを振り返った。


「……は?」


振り返った先には、伊尾がわざと置いてきたノートを片手に走ってくる雅の姿があった。


「――いおっ!!」


「え、ちょ、ええ?」


何故でここにいるんだ。その言葉は、雅が伊尾に抱き着いたことにより、声にならなかった。


「お、お嬢様!?」


「伊尾の馬鹿! 意味が分からないものを置いて行かないでよ!!」


「あの、意味が分からないのは、こちらなのですが…」


そう言い、伊尾は抱き着いてきた雅を引っぺがした。

雅の顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
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