俺がこんなに好きなのは、お前だけ。


たしかに、クラスメイトからも「付き合ってるんでしょ」ともう聞かれることなく、決めつけられている。


ほかのクラスの人たちからも人気を誇っている大志くんだから、噂は学年全体にあるみたいだ。


私は当事者だから直接誰かから聞いたわけではないけれど、偶然私と大志くんの交際について話をしているのを聞いたことがある。



「好きって言われたんでしょ?」

「うん……」

「ももかも好きって言ったんだよね?」

「うん……」

「それでそんなにラブラブなのに、付き合ってないの?」



ラブラブ、なのか?


最後の質問にはあやふやに笑って答えることしかできなかった。ペンキの匂いが充満した教室。さっき窓を開けたばかりで、まだ換気しきれていない。


周りの人たちもワイワイと楽しげに話しながら作業を進めている。私たちの会話の内容が濃ゆすぎて、聞かれていないか不安になるけれど、それぞれ話に耽っているから、大丈夫なはず。そう、思いたい。



「キスとかハグとかしないってこと?え、佐野大志はプラトニックな関係がいい、てきな?」

「…………」

「俗に言う、友だち以上恋人未満?」

「…………」



ズバズバと核心をついてくる結衣羽に、作業がいっこうに進まない。こんな乱れた心で色ぬりしたら絶対に失敗する。


でも、大志くんはキスとかハグなどのスキンシップをしたくないから友だちでいたいと言ったんじゃないと思うんだ。もっと心のなかに問題があるのだと思うの。


って、勝手に思っていたけれど、違ったりするのだろうか?


急に不安になってきた。嘘も方便と言うし。大志くん、嘘つくのうまそうだし。


じゃあ大志くんの言った「好き」って言葉は……?


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