ブロンドの医者とニートな医者
医者達

朝食

「……随分、気分がよさそうじゃないか」

「、そうか?」

「ああ……。仕事じゃないな。何か良いことでもあったか」

「……どうだか」

 目の前にいる親友が、どうもいつもと違う雰囲気だと悟ったローランド・コールマンは、横目ながらもしっかりと、その穏やかな表情を見てとらえた。

 オープンテラスのカフェに、ブロンドの長髪2人が座っているだけで日本ではかなり目立ち視線が絶えないが、周囲からの羨望の視線というものに昔から慣れている2人は、気にせず会話を続けた。

 ローランドからのいくらか強い視線に、イアン・マクベスも、当然気づいている。

「……女でも紹介しようか…」

 ローランドは意地悪気に言ってやると、

「間に合っている」

 その返答を聞いて、やはりな、と一人ローランドはうなづいた。イアンに女ができたのだ。

「そうか……」

 聞かれないと、自分から言いたくなるのがイアンだ。

「……。偶然大学のカフェで見つけて、声をかけた」

「学生か?」

 ローランドは少し心配しながら聞き返す。学生でも、大学生なら別に構わないと思うが、公私混同は自分としてはあまり望ましくない。大学病院での医師と学生というのは、ないでもないが、できればそういうややこしいことは好ましくない。

「いや…、卒業生だ。偶然医学部の後輩と待ち合わせしていたところに出会った。普通のOLさ」

「……、何関係?」

「商社だ」

「へえー……」

 ローランドは腕を組んで、固い椅子の背に背中をもたせて、ラフなジャケット姿のイアンをまじまじと見た。

 おそらく、一目惚れに近いのだろう。しかし、イアンは昔からあまり外見を重んじないところがある。何か雰囲気的なところに惹かれたのかもしれない。

「写真はないな…」

「いや、ある」

「え? どれどれ」

 差し出してきたスマートフォンのフォトアルバムに、こちらを向いていない若い女性が一人。パッと見はよい感じだが、何せ、顔がよく見えない分判断しにくい。

「……若いな」

 とりあえず、それだけにとどめておく。

「6つ下だ」

「ふーん。いつから?」

 ローランドはすぐにスマホを返した。

「一か月前。まだ、一度食事に行っただけだ」

「連絡は?」

「少し」

「それは、お前の予定が合わなくて?」

「緊急手術が入って、一度すっぽかした」

 ローランドは半分笑って、額を掻いた。仕方ないといえば仕方ないが、最初のデートでそれとは、運がない。

「え、すっぽかしたって、本当にすっぽかしたのか?」

「……、突然のことで、頭から飛んでしまって。……連絡したのは、24時間後だった」

「まあ、事情が事情だから、仕方ない。怒ったメールがきてなかった?」

「来てなかった。1時間後に、もう帰るというメールが来てたけど、電話して内容を話したらわかってくれて…次、行こうという話になった」

「おぉ、長続きしそうだな」

 なんとなく、コーヒーカップを見たままで言った。が、何も返事がないので、顔を上げて、イアンの表情を見た。

「……」

「……、紹介しろよ。早めに」

 まんざらでもなさそうだ。

 ローランドは立ち上がる。時刻は午前8時半。10時からのテレビ電話会議に間に合えばいいため、今日は夜勤上がりのイアンと朝食をともにしたが、ふと、会議の内容が頭を過り、先に準備しておく方がいいことを思い出したのだ。

「そうだな」

 遅れて、イアンもゆっくりと立ち上がる。



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