アスカラール
「ああ、そうなんだ。

有栖川くん、喜ぶと思うぞ」

元治は笑いながら答えた。

特に何も聞かれなかったことに、美都はホッとして胸をなで下ろした。

まさか自分の後輩が実の妹を口説いていることは、彼は夢にも思っていないだろう。

「時間がかかるけど、オランジェットができたらお兄ちゃんとお父さんにもあげるから」

「うん、楽しみにしてるよ」

元治はそう言うと、キッチンから立ち去ったのだった。

兄の後ろ姿が見えなくなると、
「やれやれ、助かった…」

美都は息を吐いた。

「さて…」

美都はオレンジを切ることに集中した。

お菓子作りは美都の得意分野だ。

クッキーやチョコレートなど簡単に作ってプレゼントできるものは他にもあったが、美都は成孔へのプレゼントにオランジェットを選んだ。
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