身代わり女神は、過保護な将軍様に愛されるのに忙しい

 麻酔の無い命懸けの外科手術を受ける瀕死の患者の前で、私は恐怖に引き攣った悲鳴を上げた。

 それだけ私にとって、医療用麻酔の無い四肢切断手術は衝撃的なものだった。

 苦悶する患者の目が一瞬、確かに私を捉えた。その目が絶望に引きつるのを、私は目を見開き、叫びながら見ていた。

 私は介助兵に引き摺られるようにして、医務室から放り出された。廊下の壁に背中を預け、宙を仰ぎながら、私はうわごとを呟いて震えていた。

 やがて医務室から漏れ聞こえていた、患者の悲痛な悲鳴が止んだ。しばらくして、介助兵たちが揃って医務室を後にした。

 その頃になって、私はようやく硬直して見開いたままだった瞼を閉じる事が出来た。

 けれど絶望に引きつった患者の目が、表情が、網膜上に焼き付いたみたいに消える事はなかった。

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