雪の果てに、催花雨は告ぐ。
まるで、通り雨のようだ。
光のない世界でひとりぼっちの私に、恵みの雨を齎す。
それはきっと、触ったら冷たいお水なのだろうけれど。
思い切り濡れた瞬間、温かい笑顔をくれるはずだ。
倖希にとっての私が何なのかは分からないが、私にとっての倖希は、世界に癒しを齎す雨だ。
(…今日は、金曜日)
倖希に出逢ってから、5日目。
初めて会った日、倖希は“一週間保健室で過ごす”と言っていたから、学校で会えるのは今日で最後なのかもしれない。
普通の子である彼は、来週は私とは違う世界に、元居た世界に戻ってしまう。
同じ校舎内に居たとしても、私の世界は…私の居場所は、保健室だけだから。
―――もし、また、どこかで逢えたのなら。
その時はお礼を言おう。
そんな小さな願いを胸に、私は保健室を出た。
いつも歩いている桜並木道。
ふと上を見上げた私の目に映ったのは、どこまでも青い空を背に満開に咲き誇っている、薄桃色の桜。
春が嫌いだった私は、必然的に桜を見ることなんてしていなくて。
久方ぶりに見たそれを、綺麗だと思っている自分が居ることに驚いた。
春を越えて、開花した桜を美しいと思うのは普通のことかもしれない。
けれど、私にとっては普通ではなかったのだ。
ただ、気づかなかっただけ。
ほんの少し顔を上げれば、綺麗な景色は日常の中に溢れていた。
(羽が、生えたみたい)
学校なんて、憂鬱でしかなかったけれど。
知らないことを知る喜び、笑うことによって齎される小さな幸せを、倖希が教えてくれた。
一歩前に、進めた気がする。
あと何歩進めばみんなに追いつけるのかは分からないけれど、私は私なりに頑張っていこう。
そう、思っていたのに。
家に帰った私を待ち受けていたものは、忘れていた現実だった。