独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 本当に、クラインとの交渉は必死だった。今、ユリスタロ王国は一年を通しても一番忙しい時期だ。
 三人が抜けた穴を埋めるのに、皆、一生懸命働いているだろう。それを思えば、交渉の場で失敗するわけにはいかなかった。

「三着分、か」
「とりあえずはそれでなんとか。アーベル様に買ってもらうの悪い気がするんです」
「言っておくが、お前のドレスを仕立てたくらいで俺の懐は痛まないぞ」
「それも、知ってます。でも——無駄遣いってしないにこしたことないでしょう?」

 まずは一歩。
 その一歩が大きかった。

「なんだか、お前にはかなわないような気がする」
「……そうでしょうか?」

 アーベルが、何を意味してかなわないと言ったのかは、フィリーネにはよくわからなかった。だが、これからのことを考えると、少々難しいのもわかる。

「アーベル様、これからもよろしくお願いしますね」

 懸念事項が一つ片付いたので、フィリーネの機嫌は急上昇した。これで、アーベルの隣に立っても、服装だけは不釣り合いとは言われないですむだろう。
< 106 / 267 >

この作品をシェア

pagetop