独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 ——けれど。
 パウルスが未来の国王だったとしても、フィリーネは国のために何ができるのか考えただろう。

「『もっと』の先には何が続くんだ?」
「ええと、それは……ごめんなさい、なんでもないです。だめですね、もっとしっかりしないといけないのに」

 アーベルのおかげで一歩踏み出すことができたのに、こんなところで立ち止まっている場合じゃない。

「いい女王になれるように、もっと努力しなくちゃ。アーベル様を見てたら、そんな気がするんです……」
「俺か? 俺は——そうだな。俺は、フィリーネを見ていると、そういう気になる」
「なんで? 私、何もしてないのに」

 アーベルが、自分のことをそんな風に見ているなんて、フィリーネは想像したこともなかった。思ってもいなかった発言に、彼女の胸の奥で何かが動く。

(——だめ。この感情を意識しては……だめ)

 くっと唇を結んで、何もなかったみたいに装った。アーベルには、気づかれないことを願って。
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