独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「三乙女のレースっていい宣伝文句だな」
「そ、そうでしょうか?」

 不意にアーベルがほめてくれるから、また心臓が音を立てた。こんなにドキドキしっぱなしだったら、そのうち心臓が弾け飛ぶのではないかと余計なことが気になってくる。

「あれは、お前が考えたんだろう?」
「そうですよ。だって、どれだけ素晴らしいレースでも、目に留まらなかったら意味がないもの。ユリスタロ湖の女神が、三人の娘に恋をかなえるレースの作り方を教えた。そのレースを身に着けたら、きっと恋がかなう——そういう風に言われたら、きっと女の子達は飛びつくと思ったんです」

 そんなことを言われたら、フィリーネもきっと飛びついただろう。

 あんな恋がしたい。こんな恋がしてみたい。

 三人の乙女の恋の物語を謳い文句として作り上げたのはフィリーネなのに、レース職人達の作業を見ている時にはそんな風にどきどきしていた。
 その相手がアーベルだったらいい——そんな考えが浮かんでしまうのは、全力で否定する。
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