独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
(俺は、こんなに一生懸命になったことがあっただろうか)

 幸いなことに、と言うべきかアーベルはすべてにおいて恵まれていた。
 容姿、身分、財力——それに、頭脳も。剣をとれば、騎士団長に一歩及ばないにしても互角の勝負をすることができるし、乗馬の腕もかなりのものだ。
 なんでもさほど労せずに手に入るから、努力なんて言葉を意識したこともなかった。

『これは、虹の乙女、イリスのレース。できれば、昼間に身に着けるのがいいかなと思っているけれど……』
『……これは』

 イリスのレースは、特殊な染め方をした糸を使っているそうだ。遠目に見ればただの白い糸なのだが、日の光のもとでは、その名の通り七色にキラキラと輝くのだ。

『これは、スカートの飾りに使うのがよろしいでしょうね。腰のあたりから、膝のあたりまでスカートをもう一枚重ねたように使いましょう』

『そんなに大胆に使って大丈夫かしら。これは……その、糸を染めるのがなかなか難しくて、大量には用意できないのだけれど』

『それでこそ、ですよ! まずは、その美しさを存分に見せびらかすのです。欲しがる者が増えてからが勝負! 花嫁のベールに使うのもありですな!』
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