独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
『クラインさん、素敵! 最高だわ!』

 クラインの言葉にうんうんとうなずいて、それからアーベルの方へ彼女は目を向けた。

『ごめんなさい、お待たせしちゃいましたね』
『いや、いい——』

 あの時、なんて返したのか、アーベル自身よく覚えていなかった。
 
 城に戻れば戻ったで、面倒な相手が待ち構えている。国王である父だ。アーベルに結婚しろとせまった手前、どの女性を気にしているのか聞きたかったらしい。

「最近、ユリスタロ王国の王女とよく出歩いていると聞くのだが?」

「ええ、まあ——父上、それが何か問題ですか? 三か月後には、政略的に必要な相手と婚約しますよ。そのために、あんなに令嬢達を集めたのでしょう?」

「そうではなく——だとしたら、三か月後、今一緒にいる女性はどうするつもりだ」
「彼女とは、そういう付き合いではありません。販路を見つけたいというから協力しているだけで」

 ——そう、販路を見つけたいというフィリーネに協力しているだけだ。それは、揺るがないはずなのに、どうしてもやもやするのだろう。

 その理由は、アーベル自身にもよくわからなかった。

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