独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 横からすかさずパウルスが口をはさむ。フィリーネは軽く肩をすくめた。

「馬鹿なことを言わないでよ。それより——今夜のパーティーには、これを着ることにするわ。さっそくレースの美しさを見せつけないと!」
「毎日のようにパーティーで大変ね」
「招待する側も大変だと思うわ。アーベル様なんて、毎日次から次へといろいろな女性とダンスさせられてるもの」

 今のところ、フィリーネが一番の『お気に入り』ということにはなっていても、他の女性を完全に締め出すなんてできるはずもない。

 そんなわけで、アーベルは毎回何人かの女性と話をしたりダンスをしたりするのを義務付けられているのだ。
 そうやって集まる時には、アーベルの従僕が、次はどの令嬢に話しかけるべきなのかを耳打ちしているのだからすごい。

「……でも、この生活もそんなに長くは続かないものね。早く帰りたいわ」

 窓の外に目をやるけれど、目になじんだユリスタロ王国の景色は、ここにはない。
 広大な庭園が広がっていて、城を囲む塀の向こう側には、城下町の街並みがちらりと見えるだけ。

 たくさんの人が行き来していて、とてもにぎわっているけれど——この生活になじむのはとても難しそうだ。

(でも、アーベル様と一緒なら……楽しいかもしれない)

 不意にそんなことを考えて、ぶんぶんと頭を振る。アーベルとの未来なんて、想像したってしかたない。
< 119 / 267 >

この作品をシェア

pagetop