独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「なんとなく、遊んでいるのって落ち着かなくて。他の人達と違って、花嫁選びに参加してるわけじゃないし」

 フィリーネはきちんと手を拭いてから、編みかけのレースをぽんと籠の中に放り込んだ。これはまた、あとで編めばいい。

「——それは、だな」

 アーベルが言葉を重ねようとしたところで、ライラが向こう側からやってきた。ライラは、アーベルを見かけるなり、強引に同じテーブルに着く。

「あなた、こんなところでなにしてらっしゃるの?」
「ライラ様……、アーベル様とお茶をしているところなのですが、ごめんなさい。カップがもうなくて」

 今のところ、王妃であるアーベルの母は、王太子妃の第一候補者にライラを押しているらしい。でも、アーベルとライラはあまり話す時間はなかったはずだ。フィリーネは、今自分が厨房に新しいカップを借りに行けば、彼らふたりの時間ができると思った。

「私、厨房までカップを取りに行ってきます」

 フィリーネが立ち上がるのを、アーベルは引き留めようとした。だが、そのアーベルを遮り、ライラが口を開く。

「お願いしても、よろしいかしら?」
「ええ、もちろん」
< 131 / 267 >

この作品をシェア

pagetop