独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 歩き始めたフィリーネの後方から、アーベルが追いかけてくる。せっかくフィリーネが気をきかせたのに、なんでついてきてしまうんだろう。

「何やってるんですか、アーベル様。ライラ様とお話する時間作らないと」
「あれはあれで面倒なんだ! とにかく、厨房まで付き合う。お前は俺の『お気に入り』だからな」
「……あそこに一人で待たせておくのもどうかと思うんですけど」
「既成事実を作られたらたまったもんじゃない」

 アーベルの言うことは、フィリーネには難しすぎてちょっとよくわからない。
 けれど、厨房から新しいお茶とカップをもらって戻ってきた時には、ライラは姿を消していた。

「……ほら、アーベル様がおしゃべりしないからですよ! お茶もないし、一人でテーブルに座ってるって、ばかみたいじゃないですか……!」

 まったく、ライラの相手をしないでどうするというのだ。けれど、フィリーネの心の声は、アーベルには届いていないのだった。
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