独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 ◇◇ ◇
 
 気がついたら、アーベルはフィリーネのことを視界の隅で探すようになっていた。誰と一緒にいる時でも。

「アーベル様、聞いてらっしゃいます?」

 声に意識を戻せば、ライラがこちらをじっと見ていた。先日、フィリーネと観劇して以来、ライラはますますアーベルに接近してくるようになった気がする。

 たしかに、美人なのだろうとは思うし、デルガド王国とは今後も友好的な関係を築いていくべきだというのもわかっている。

 だが、彼女に対しては、アーベルの頭の中でなぜか警鐘が鳴り響くのだ。ライラには、注意しなければならない、と。
 今だって、なぜかアーベルの存在を察知し、移動中の彼を捕まえに来たのだ。

「悪い——なんだったかな」

「もうっ! 私達と、湖にボートに乗りに行きませんかとお誘いしたのです。私と、それからルーイン侯爵令嬢と……ノディラ王国の王女のエレイン様と」

「そうだな——」

 アーベルは、考え込む表情になる。母はライラが一番いいと思っているのは知っているのだが、どうにも気が進まない。
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