独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 アーベルもそれなりの美的感覚を備えているので、彼女が美しい女性であるのはもちろんわかる。マナーが完璧なのも、幾度か一緒に行動しているうちに理解した。
 たしか、四か国語か五か国語を母国語同様に話すだけの教養もあるし、各国の有力者に顔が広いのもわかっている。
 たぶん、未来の王妃には、彼女みたいな女性を迎えるのがいい——というのもわかるのだが。

「悪いな。フィリーネを一人にしておくのは気が進まないんだ」

 そう口にしながらも、自分で自分の言葉に違和感を覚える。フィリーネを一人にしておくのは気が進まない。それは、本当に——演技だけなのだろうか。

「……そう、ですか。」

 ライラはしょんぼりしてみせた。

「でも、彼女はユリスタロ王国の出身でしょう。アーベル様には……その」

 ふさわしくない、という言葉を直接口にしない慎み深さはさすがに持ち合わせていたらしい。そんなライラに向かい、アーベルは自分にしいて笑みを作った。
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