独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 それでも、レースは高価な品だ。欲をかいて、必要以上に作業をする者もいるかもしれない。その危険性を少しでも減らすためと、城の一階が工房として使われている。その時は作業開始時と終了時に、名簿にサインするのが決まりだ。
 それに、冬の間は皆城に集まって暮らすから、工房を城の外にもうけるより城の中に工房を設ける方が楽なのだ。
 城に集まって暮らすと聞いて、アーベルが疑問を覚えた表情になった。

「城に集まって暮らすって、どういうことだ?」

 そうか、とフィリーネは思った。
 アーベルは、ユリスタロ王国の風習については知らないのだ。

「私の国は山の中だし、冬には雪がたくさん降るんです。昔、お父さんが亡くなった家があって、残された家族が……暖を取るための燃料がなくなってしまって、凍死しかけたことがあったんです。ぎりぎりのところで、隣の家の家族が発見したそうなんですけど」

 その家は、夏の終わりに主が死亡し、秋の間に十分な冬の支度ができなかった。
 他には、老人二人で暮らしている家や、両親が亡くなって、子供だけで暮らすようになった家など、冬の間心配な家庭はたくさんある。
 そんな事情もあり、そういった家族は冬の間は王宮で暮らすようにという命令が出たのである。王家は来るもの拒まずだったから、いつの間にか全国民が冬の間は王宮で生活するようになった。
< 144 / 267 >

この作品をシェア

pagetop