独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 そんなやりとりがあってからひと月ほどが過ぎた日のこと。フィリーネとヘンリッカは、アルドノア王国に向かう馬車に乗り込んでいた。
 フィリーネ達が王宮へ行こうと話したあの日よりいっそう春めいた陽気になっているけれど、まだ少し肌寒い。二人の膝には、防寒用のひざ掛けがかけられていた。

「他の国のお姫様達の間に入って、浮かないか心配よねぇ……」
「大丈夫、フィリーネ様だってそんなに悪いわけじゃないから」

 ヘンリッカはずけずけと言い放ち、フィリーネは視線を落とす。
 結ったり肩から背中に流したり、その日の気分で髪型を変えているふわふわした髪は、艶々していて悪くはない。ぱっちりとした大きな二重の目は、晴れた日のユリスタロ湖と同じ綺麗な青。これも悪くない。
 それから、ちまっとした鼻に小さな口が、卵型の顔の中にまあまあバランスよく配置されている。
 不細工というほどでもないけれど、目立つ美人というわけでもない。よくいって、中の上、上の下というところだ。より正確さを期すならば、中の中、だとフィリーネ本人は思っている。

「そうね、そんなことより『三乙女のレース』の販路を確保する方が大切だものね。別に王太子妃狙いってわけじゃないんだし」
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