独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 フィリーネの手が、ひざ掛けの縁に飾られているレースを撫でる。このレースは、フィリーネとヘンリッカがそれぞれ編んだものだ。
 なにしろ、人口が八百人しかいない小さな国なので、王女様や伯爵令嬢といえど、こうした手仕事は欠かせない。
 二人とも料理もできるし、裁縫もできるし、掃除だって問題ない。城の窓ガラスを磨く作業だって任されるくらいだ。
 今は二人とも脇に置いてしまっているが、馬車の中にもしっかりレース編みの道具を持ち込んでいる。暇さえあれば手を動かしている二人なのだ。

「……販路、見つけることができればいいけれど」

 ふぅっとヘンリッカがため息をつく。

「それをどうにかするのが私達の仕事でしょ」

 フィリーネはそう言ってみたが、実際のところ彼女も自信なんてない。どうにかして販路を——と意気込んではきたもものの、生まれてから一度もユリスタロ王国を出たことなんてない。
 今回、アルドノア王国の招待を受けるにあたり、侍女も従僕も連れて行かないというわけにはいかずフィリーネは困ってしまった。
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