独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 他の国の令嬢達みたいに、身だしなみを整えたり話し相手を務めたりお茶をいれたたりといった身の回りの世話をするという意味での侍女は、ユリスタロ王国には存在しない。自分のことは自分でするのが当たり前。
 他国から自国に賓客を招いた時、正装に身を包む必要があるが、その時だけ誰かに手を貸してもらうというのが基本だ。
 両親が国外に出かける時には城の侍従長と侍女頭を連れていくが、二人は父の秘書と母の秘書でもあるのでフィリーネが連れて出てしまうわけにはいかない。
 結局、ヘンリッカに侍女としてついてきてもらうことにした。従者役を頼んだのはパウルスだった。この二人なら気心も知れているので一緒に来てもらえば心強い。

「ねえ、もうすぐルディンに着くよ?」

 御者台からパウルスが振り返る。彼にとっては、これはちょっとした旅行気分らしい。ヘンリッカとは恋人同士というか婚約者同士なので、都のルディンで休みの日には羽を伸ばすつもりなのだろう。
 パウルスの言葉に、フィリーネはふっと気を引き締め、馬車の中で背筋を伸ばした。
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