独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 このショールが破られたことより、このショールにかけた皆の想いを踏みにじられたのが嫌だったのだ。このショールはフィリーネの手によるものだけど、使われている糸も技術も祖父の代から研鑽を積んできた技術の結晶。
 きっと、フィリーネの気持ちはライラには永遠に理解できないだろう。理解できないことを責めるつもりもない。
 彼女とフィリーネ達とでは生きてきた環境が違うわけで——ライラには、このショールに込められたユリスタロ王国の皆の想いをくみ取ることなんて望めない。

「泣くなって——泣かれると、俺も困る」
「困るって、そんなこと言われても……だって、これって……」

 アーベルのことを責めてもしかたがないことだってわかっているのに。フィリーネの目からあふれ出る涙は量を増す一方で、とどまることを知らなかった。

「お、おいっ。本当になくなって——頼むから、泣くな」
「だって、大変だったのに……」

 アーベルの前で、自分の顔がぼろぼろになっているのもわかっていたけれど、涙を止めることはできなかった。
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