独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 ——けれど。
 ここにいたるまでの間、皆が重ねてきた想いまでも踏みにじられたみたいだった。

「落ち着けって、わかってるから——お前達が、どれだけ頑張ってきたか」
「わからないっ! アーベル様は、わかってない!」

 アーベルが慰めてくれているのだってわかっている。それなのに、どうしても気持ちが制御できなかった。
 アーベルの胸にどんどんとこぶしを叩きつけて、フィリーネは声を上げた。
 溢れる涙が、ドレスの膝に染みを作る。どうして、こんなにも気持ちの制御ができないのだろう。こんなに制御ができないなんて、今までなかった。

「フィリーネ、落ち着け。落ち着けって——」

 ぎこちなく、アーベルの手が背中に回される。ぎゅっと胸に顔を押し付けられて、フィリーネは完全に混乱した。

「アーベル……様……?」
「ユリスタロ王国の人達の想いを踏みにじるつもりはなかった。今のは、俺が全面的に悪い」

 抱き寄せられて、なだめるみたいに大きな手が背中を撫でる。彼の手はとても気持ちよくて、フィリーネは急におとなしくなってしまった。
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