独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「ごめんなさい、大丈夫……です。私、みっともなくて……本当に、ごめんなさい」

 ようやく、高ぶっていた気持ちが落ち着いてきた。
 フィリーネは彼を押しのけようとしたけれど、フィリーネの力ではアーベルを引きはがすことはできなかった。

「……フィリーネ」

 こんな風に、耳の側、低い声で名前を呼ぶなんて——ずるい。
 たぶん、彼とでは積み上げてきた経験値が全然違うから、彼はフィリーネを翻弄しているつもりはないんだろう。ただ、慰めようとしてくれただけで。

「……ごめんなさい、もう、大丈夫……です」

 気が付いたら、アーベルの服に盛大に染みをつけていた。慌ててハンカチを取り出して擦るものの、そんなことくらいでは染みは取れない。

「ご、ごめんなさい。私ってば、本当に——ああもう、どうしましょう!」

 もう少し擦ったら、染みが薄くなるだろうか。自分のしでかしたことにうろうろしていたら、その手を掴んで止められた。
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