独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「水分なんだから、乾いたら見えなくなるだろ。茶をこぼしたわけではないし」
「そ、そうかもしれないけど……」

 どうしよう、耳が熱い。
 最初から彼への気持ちを育てたって未来なんてないとわかっていたし、そうするつもりはなかったのに、惹かれてしまった。

 正面から視線を合わせたくなくて、アーベルの上着、フィリーネがつけてしまった染みのあたりに目を落とす。本当に、乾いたら少しはましになるだろうか。

「あのっ——」

 思い切って顔を上げたら、正面から視線を合ってしまった。

 間近で見たアーベルの熱いまなざしはすさまじい破壊力で、思わずぎゅっと目を閉じた。いたたまれない。こんな風に二人でいるのはいたたまれない。

 びくびくしていたら、顎に手がかけられる。

(……え?)

 今、いったい何があったというんだろう。柔らかいものが、不意に唇に触れてそして離れていった。
 指ではなく、頬でもなく。一瞬、二人の吐息が混ざり合って——。

(……うそっ!)

 慌てたフィリーネが目を開いた時には、アーベルは立ち上がっていた。
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