独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 たぶん、アーベルには無理だ。そこまで民に向かい合う自信なんて、ない。

(フィリーネと出会ってから、ちょっと俺はおかしいのかもしれないな——どうして、あいつのことがこんなに気になるんだろう)

 最初のうちは、都合のいい相手としか認識していなかったはずだった。
 互いの利益が合致しただけのこと。フィリーネのその後のことには、まったく責任を持つ必要もないと思っていた。
 それなのに、彼女の涙がこんなにも気になってしかたない。

(……これを修理するのは無理、だよな……)

 思わず持ってきてしまったショールを手に、アーベルはため息をついた。

 引き裂かれたレースを、アーベル自身の手で直すのは絶対に無理だ。素人が下手に手を出してはいけない領域というものがある。
 かといって、城にいる職人達に頼んだところで、彼らはこのショールの元の形を知らないわけだから、元通りにすることなんてできるはずもない。

 どうにかして、直してくれそうな人間を見つけなければ。

(あ、いや。一人——いるじゃないか)

 アーベルが思いついたのは、フィリーネの侍女としてこの城に来ているヘンリッカだった。
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