独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 今さら、言い訳をしたところで始まらないのもわかっている。アーベルがフィリーネを泣かせたのも同然だ。

 彼が、あんな契約を持ちかけなかったら、フィリーネがライラに敵視されるようなこともなかっただろうし、手をかけて作った作品を破壊されるようなこともなかっただろう。

「アーベル様、ではこれはお預かりしておきますね」

 パウルスを引きずるようにしてヘンリッカは行ってしまい、あとにアーベル一人が遺された。

(なんだって言うんだよ——!)

 アーベルは、どんと壁を叩く。分厚い壁は、アーベルのこぶしがあたった音など、簡単にのみ込んでしまった。

 どうして、従者などにあんな言われ方をしなければならないのだ。いや、パウルスは従者ではあるが、彼はフィリーネのいとこだ。

 生まれた時からずっと一緒にいるわけで——。

(……そうか)

 自分の内に生まれた感情を、アーベルはようやく理解した。
 どうやら、自分はフィリーネに好意を寄せているらしい。それが、どこまでの好意なのかは、自分でもよくわからないが。

 はは、と乾いた笑いが漏れる。まったく、どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 ——だが。

 自覚した以上、このまま手をこまねいているつもりもなかった。
 すぐにフィリーネへの手紙を書いて従者に届けさせる。急な招待だが、彼女は応じてくれるだろう。
< 185 / 267 >

この作品をシェア

pagetop