独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
(どうして、昨日、キスしたのですか)
 そう口にしかけた言葉を、そのまま封じる。だって、今、それを問いただしてしまったら、この親密な空気が一瞬にして消えてしまうような気がしたのだ。

「フィリーネは、甘いものが好きだというからな。厨房に命じて、フィリーネが好きな菓子を用意させた」
「……私が一人しかいないって、アーベル様、把握してます? 十人分くらいはありそうですけれど」

「食べきらなかったら、部屋に持って帰れ。好きなんだろう——お前の侍女の……ヘンリッカ、だったな」
「ヘンリッカにお土産、ですか?」

「ああ。ヘンリッカも甘い菓子は好きだろう。昨日呼びに来てくれた礼というわけでもないんだが、喜ぶなら持って帰れ」
「好きですよ。パウルスも好きです。この王宮の菓子職人が作ってくれるお菓子は本当においしくて」

 どういう風の吹き回しなのかはさっぱりわからないが、アーベルがヘンリッカにも気を使ってくれるのが嬉しい。

「パウルスは、蜂蜜入りのマドレーヌが好きなんですよ。これは、パウルスへのお土産に残しておきます」

 パウルスも、この城で作られる菓子は気に入っている。いとこも喜ぶと伝えたつもりが、なぜか、アーベルは不機嫌な顔になった。
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