独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「俺も、悪かった。ライラにはもう少し注意を払っておくべきだったんだ。あの作品を作るのは、大変だったんだろ?」
「そ、れは……」

 大変、ではあったけれど。破壊されたものを悲しく思う気持ちも嘘ではない、けれど。

「でも、大丈夫です。私……また、新しく作るから。商品にできない糸を集めるところからやらないといけないから、また時間がかかってしまうかもしれないけれど」
「——お前は」

 嘆息したアーベルは、フィリーネの頭をぐしゃぐしゃとかき回してくる。

「な、な、何をっ!」

 信じられない。せっかくヘンリッカが綺麗に結ってくれたのに。だが、アーベルは気にした様子も見せず、今度は髪を指先でもてあそび始めた。

「もうっ!」

 思いきり膨れてしまったけれど、アーベルの側にいたいという気持ちもまた否定できないからやっかいだ。

「俺は、今まであまり考えたことがなかったんだ——民と共に生きるということが何をさしているのかを」
「え? そうなんですか?」

 アーベルはフィリーネよりよほど王族らしい王子だと思う。それなのに、民と共に生きるということが何をさしているのかをあまり考えたことがないなんて。
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