独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 ユリスタロ王国のレースが扱うモチーフは、雪、植物、そして虹の三種類。それに似せてはいるけれど、フィリーネの見たことのない図案だった。フィリーネは、ユリスタロ王国で作られているレースの模様はすべて記憶しているから間違いない。
 もし、新たなレースの台頭にクラインが気づいていたとしたら——フィリーネが裏切ったと思われてもおかしくない。早く彼に弁明しなければ。
 アーベルをその場に残し、フィリーネは一目散にクラインの店へと走る。

「——クラインさん! どうして連絡してくれなかったんですか!」

 店にフィリーネが飛び込むと、クラインは驚いた様子でこちらを見ていた。

 彼の手元にあるのは、大きなノート。目の前の机には、レースが広げられていて、このレースを生かすデザインというのを考えているところらしかった。

「連絡って?」
「だって、私、約束したでしょう。クラインさんのところにしか三乙女のレースは売らないって! なのに、街中にたくさんレースがあふれてるから!」

 懸命に訴えるフィリーネに向かい、クラインはなんでもないことのように笑って見せた。
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