独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 アーベルのこと、好きになってよかった——国に帰った後も、まだまだ彼の教えてくれたことを生かす機会は十分にある。
 この国で学んだことを生かす度に、きっとアーベルのことを思い出す。だから、彼を好きになってよかった。この気持ちはフィリーネの宝物だ。

「それから、ですね。納品していただいたレースが、もうそろそろ尽きてしまいそうなのですよ。新しいレースをお願いできないでしょうか」
「本当に? ええ、もちろん! もうなくなってしまうなんてすごい売れ行きね。クラインさんのドレスが素敵なおかげだわ!」

 まさか、先日納品した分が、もうなくなってしまったとは思わなかった。予想以上の売れ行きだ。

 それから、今アーベルから提案のあった王家承認の印も、父に頼まなくては。たぶん、木彫り職人か何かに依頼したら、店の扉に下げる札を作ることくらいはできるだろう。

「早く帰って、パウルスに話をしなきゃ!」

 こういうことには、パウルスが詳しくて役に立つ。けれど、パウルスの名前が出たとたん、なぜかアーベルは不機嫌な顔になった。
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