独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 今は他の人の目がないのに、こうやってアーベルと歩いているなんて、信じられない。

 と気を抜いていたら、不意にアーベルが足を止めた。

「アーベル様、何してるんですか?」
「食うだろ。ほら」
「あ、ありがとうございます……」

 アーベルから差し出されたのは、屋台で売っている飴だった。細い串の先に、動物の形を模した飴が刺さっている。フィリーネの飴は兎の形で、アーベルの飴は、犬の形だ。

「食べてしまうの、もったいないですねぇ……」

 可愛い動物の形を残しておかなくていいのかなとちらっと思ったけれど、アーベルはさっさと自分の飴を口に入れていた。

「もう食べちゃったんですか! 可愛いのに——こういうのって、目でたっぷり見て楽しんでから食べるんですよ!」
「食べるために買ったんだから、さっさと食べた方がいいだろ。手がふさがっていたら、次は買えないぞ」

 ひょいとフィリーネの手から串を取り上げたアーベルが、その串をフィリーネの口もとに突き出してきた。このままでは許されない雰囲気だ。フィリーネが小さく口を開けると、口内にぐいぐい飴が押し込まれてくる。
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