独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「そりゃそうですよ。いとこで、生まれた時から一緒にいるし——」
「俺の前で、あいつの名前は口にするな」
「……はい」

 それってとても難しいような気もしたけれど、アーベルにはアーベルなりの考えがあるんだろう。

「ほら、あっちに肉の串焼きが売ってるぞ。買ってやろうか」
「まだ、飴食べてます!」
「だから、さっさと食えと言ったんだ!」

 でも——とフィリーネは思うのだ。今、アーベルと一緒にいられるのなら、それで十分じゃないか、と。
 もう少ししたらフィリーネは国に帰る。両親はまだのんびりしているように見えるけれど、十九の誕生日を迎える頃には、女王となるフィリーネを支えてくれる夫も決められるだろう。

 そして、父が退位したら女王として即位する。今よりずっと重い責任がのしかかってくるけれど、アーベルとこうやって街を歩いた思い出は、きっと一生心の中でキラキラしているはずだ。

 店先に出された屋台で売っている串焼きだの、焼き菓子だのをたらふく食べ、最終的にアーベルが足を止めたのは、道端に敷物を敷き、安価な装身具を売っている露店だった。
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